ダウン弓からアップ弓へ移行時の体重移動のしかた

今回はダウン弓の弾き終わり、ダウン弓からアップ弓への弓の動きの方向転換の場面、「い・ち・と・お」のカウント(カウント方法についてはこちら>>)の「と」と「お」のタイミングでの「体重移動」の練習方法をご紹介します。

 

ダウン弓の弾き終わりは、次のアップ弓での発音の準備をします。以前にもこの「ダウン弓の弾き終わりのタイミングでの弓の動かし方」(こちらの回の後半部分を御参照ください>>)を少しご紹介しました。今回はこれに「体重移動」も組み合わせていきます。

 

注)

1. 冒頭のイラスト(スピードが出ると浮きながら走行するリニアモーターカー)についてはこちらを御参照ください。>>

 

2. この練習を初めてする時は一つの四分音符を「いぃ・ちぃ・と・お」と4つに細分して唱えられるようにゆっくり弾いてください。ダンスの振り付けを覚えるようなつもり、テンポに合わせた「弓の踊り」だと思って体で動きを覚えてください。

 

3. 初めてチェロの弓を手にした方で、まだ弓の先が使えない方は無理に全弓を使わず、弓の重心(弓の木の棒の部分をつまんで弓を持ち上げたときに、弓が地面と平行になるところ)付近20~30cmを使ってください。弓の重心にシールやテープで印をつけておくことをおすすめします。

 

4. 今回初めてこの「紙上レッスン」をお読みくださった方へ:

今回取り上げていますテーマはシリーズ物です。以前の回にさかのぼってから順にお読みくださるとわかりやすいかと思います。まずは、こちらからどうぞ>>

 

さて前回(こちら>>)は、

1. 弾く前に弓と体の準備をし、

2. ダウン弓で一つ目の音符の音を立ちげて音を伸ばしているところ まででした。

 

今回は、「動いていた弓を止めて、次にアップ弓をスタートさせる準備をする」練習です。 

以前にダウン弓の弾き終わり(アップ弓への準備)での弓の動きは簡単にご紹介しました(こちら>>)。この時は、「い・ち・と・お」の「と」で止めて「お」で弓を弦に沈めると表現しましたが、今回は体の動きも同時に組み合わせるので、次のようにカウントを変更します。

 

1. 「(大きい)ち」で、体重を左脚から右脚に移しながらその勢いで右腕を広げ、(音を伸ばし)、

2. 「(小さい)ぃ」で、体重移動は完了し(右の足とお尻に体重を乗せています)、弓を止めます。

3. 「と」で、体重は体の右側に乗せたまま、弓を弦に沈みこませます。この時の深さは、次に弾こうとする弦に最適な深さです。(ザックリ言うと、細い弦は浅め、太い弦は深め)

「ぃ」と「と」のタイミングでの様子を前から見るとこんな感じ:

まだ弓の真ん中より先の方が使えない方は、この写真のような弓先を使わないで、弓の重心付近を使いましょう。

そしていよいよ最後の「お」のタイミングで使うテクニックが、以前ご紹介した「滑り台方式で弓が勝手に動く」です。(こちら>>)「弓が勝手に動く」とは体重移動を先行させて、それに引っ張られて腕(弓)が動くというイメージです。初心者の皆さんは弓を動かすことだけに注意をとられがちで、体が上手に使えていないことが多く、そのために肩が凝ったり、右の親指が痛くなったりしがちです。テニスを習ったことのある方なら「手打ち」という言葉をご存知だと思います。野球のバッターもそうですね。腕だけ振ってもパワーはでません。体重移動が腕を動かすパワーを生みます。

 

ではここで本題から外れて、先に「アップ弓が勝手に動くイメージトレーニング」をしておきましょう。

弦に弓を十分に沈みこませたまま、体重を右脚・右のお尻から、左脚・左のお尻の方へジワジワと移していきます。すると、体重移動の途中のある時、勝手に弓がアップ方向に滑りだします。

 

以前にご紹介した詳しい説明はこちら>>

 

このとき、

体重が移動し始めるのが先で、腕は一瞬後から動き出す というのがポイントです。

 

アップ弓を「弦の上を、滑り台を滑るように」体重移動を使って動かすイメージがわかったら、本題に戻って、いよいよ「いぃ・ちぃ・と・お」の「お」のタイミングでこれを使ってみましょう。

さて、こちらのイラストにある、リニアモーターカーの向きにご注目!(なんでこんなところにリニアモーターカーのイラストがあるのか、不思議に思っておられる方はこちら>>

 

「と」のタイミングでは弓の動きは止まっているものの、弓はまだ「今まで走ってきた方向」を向いて止まっています。

 

しかし、次の「お」のタイミングでは、まだ弓が弦に張り付いているので動き出しませんが、体重が左(アップ弓の方向)に移動し始めているので、弓がこれから進んで行こうとする「方向だけ」が変わります。この時右指には「ねちっとした感覚」があります。体がアップ方向に体重移動しているのでそれに引っ張られて腕が「勝手に」動こうとしても、弓が弦に張り付いていて動けないという瞬間です。

 

ダウン弓の初めの「お」のタイミングの時と理屈は同じですが、ダウン弓の弾き始めでは弓が弓元にあるので、腕の重みが弦にずっしりかかり、簡単に弓が弦に張り付いてくれます。しかし、ダウン弓の最後のこの「お」のタイミングでは、その一瞬前の「と」のタイミングでの「弓の深さ」が足りないと十分張り付きません。弓が弦に十分に張り付いていないと、体重を右お尻から左お尻に移動し始めただけで弓がアップ方向に「いとも簡単に」動き出してしまいます。弓が弦に張り付いている「摩擦」が少ないからです。すると、音に「アタマ」(こちら>>)が付かないだけでなく、その弦を鳴らすための弓の深さが不十分で、弦の表面を撫でているだけのような薄っぺらい音になります。

 

弓が先に行くほど、この「ダウン弓の音の最後に弓を弦に十分沈みこまる」動作にはコツとチカラが要ります。腕のチカラだけに頼っていると指や肩や肘を痛めることに繋がります。楽器の裏板側から体幹で楽器をしっかり押し出し、支えましょう。(こちら>>) ということで、初めて弓を持って楽器を弾く練習を始めたばかりの方は音を出す練習の時、長い弓を使わず、短い弓(弓の重心付近20~30㎝)で練習した方が安全です。

 

弓先でのアップ弓の音の響きが思うように出ないと、アップ弓の音がもう鳴り始まってしまってからの「(小さい)ぃ」のタイミング」になってしまってから一生懸命弓を弦に押し付けてこすっている方がありますが、これは残念ながら圧力をかけるタイミングが遅すぎです。「(小さい)ぃ」はもう弓の圧力を抜かなくてはならないタイミングです。きれいではっきりしたアップ弓の音を出したいなら、ダウン弓の最後の瞬間に弓が弦を掴んでいるか、いないかが「勝負の分かれ目」です。

 

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